カンボジアに赴任して

森:今回は北九州市役所上下水道局の川嵜孝之さんとの対談です。私が4年前にカンボジアを視察した際、現地を案内していただいた方が川嵜さんでした。はじめにカンボジアで当時されていた仕事の内容について教えてください。

川嵜:2012年から3年間、JICAの水道専門家という立場でカンボジアに赴任していました。カンボジアは「プノンペンの奇跡」と呼ばれる首都の水道機能の回復を行ったことがよく知られていますが、ちょうど私が着任した2012年には、既に地方でも物凄いスピードで都市化が進む一方、水道インフラは首都に比べて量的にも質的にも不足していました。そこでプノンペンの成功を地方8都市でも展開するための経営能力向上プロジェクトのリーダーとして従事していました。

上水道から下水道へ

森:最近ではカンボジアでも都市化の進展や生活水準の向上を受け、上水道だけでなく下水道へとニーズが高まり、北九州市に求められる技術協力の内容も広がっていると聞いています。その辺はいかがでしょう。

川嵜:特に首都プノンペンでは急激に人口が増えていく中、処理場を伴う本格的な下水道インフラがまだない状況です。家庭などから出てくる排水は町中の川を通って全て下流の沼に流し込んで処理しています。ところが川も沼も自然の浄化能力を超えつつあるという問題があります。その結果、住環境そのものの悪化や不衛生な環境による伝染病の発生につながる恐れもあります。長期的に見ると河川の水質悪化は水道の水源悪化にもつながります。水に対する考え方を「使って流す」という一方向のものから「循環するもの」に変えていかなければならず、そういう意味でカンボジアは下水道整備の意義とともに、北九州市への期待が大きくなっています。

プノンペン都と姉妹友好都市

森:プノンペンはカンボジアの首都ですので正式な呼び方はプノンペン都と言うそうです。私も視察を経て2014年の6月議会の本会議で北九州市とプノンペン都の姉妹都市締結を提案しました。2015年にカンボジア国のフン・セン首相が訪日された際、同首相の方から両都市の姉妹都市締結の話もあり、2016年3月に北九州市とプノンペン都との姉妹都市協定が締結されました。川嵜さんは両都市の可能性についてどのように感じられていますか。

川嵜:プノンペンの生活で興味深かったことは、カンボジアが経済成長著しい「メコンデルタ(カンボジア・ラオス・ミャンマー・タイ・ベトナム)」のハブ的な位置にあることです。飛行機でバンコクまで1時間、ホーチミンまで40分という近さにあります。カンボジアを通じてアセアン全体に視野を広げ、またプノンペンというパートナーを通じてアセアン全体に北九州市を発信できる好位置にあると思います。行政に限らず、交流のポテンシャルがとても高い都市ではないでしょうか。

森:私が現地視察で感じたことは、カンボジアはとても若い国だということでした。いま姉妹関係があって多分野で交流が始まっていますが、今後は企業やNGO、NPO、市民団体、個人間も関係が深まっていくことが期待されます。両都市の交流を楽しみにしております。