森浩明: 今日は北九州市の水道事業に永く携わり、現在は北九州市海外水ビジネス協議会の森一政副会長にお話を伺います。ベトナムでは北九州市で開発された「U―BCF」という高度浄水処理技術が使われていますが、この技術はどのようにして開発されたのでしょか。
森一政: 遠賀川は流域人口70万人の生活雑排水が流れ込んできて、昔はアンモニアや窒素が高く、それを取るのは塩素でした。ところが、塩素と有機物がくっ付くとトリハロメタンができる、これをなんとかしたいというのがきっかけです。そこで着目したのが、自然浄化でした。石などについている微生物がヌルヌルしている。それを使ってアンモニアなどを取れないかという実験を何度も行いまいた。そのなかで粒状活性炭を下から入れた時に98%くらい取れるという成果がでました。
森浩明: 本市の海外での水道事業について始まりを教えてください。
森一政: 転換点になったのは、平成11年(1999年)に大分県の耶馬渓から5万9千トンの水が来たことです。これによって、本市は水源開発や大規模な施設整備の時代は終わり、以後、維持経営の時代に入ります。膨大な水道施設を維持管理、運営していく上で鍵となるのは、やはり人でした。職員をそのレベルまで持っていかなければなりません。そういった時に海外から技術支援の要請があり、私たちの職員の育成という観点からスタートしました。
森浩明: カンボジアではどのように取り組まれましたか?
森一政: 1999年にスタートして現状報告を受け、2000年に私が団長として現地に行ってみました。そこで、水道の水をそのまま飲んでいる人がいることに衝撃を受けました。やはりペットボトルを買うお金のない人は水道水を飲む訳です。それからプノンペンから多くの職員が北九州に来て、いろいろな技術を徹底して教え、プノンペンの水は飲めるようになりました。
森浩明: どうして北九州市は相手国に受け入れられたと思いますか?
森一政: 他都市はJICAや厚生労働省が主になり、その構成員として行っています。すると、相手国はJICAや厚生労働省と話をします。一方、カンボジアは北九州市が単独で行っていろんな研修をしました。カンボジアのいろんな人間が北九州市に来ました。これだと主導権が取れます。また、他都市は自分たちの技術を押し付けようとします。高度な機器は素晴らしいのですが、それを押し付けられても、相手国は受け入れられない。その金があったら、水道の恩恵を受けていない地域に金を使いたいと思うでしょう。
森浩明: 最後に、これからの水道事業についてお話を聞かせください。
森一政: 2つあります。人材育成が1番。海外でも喜ばれる事業でありますが、自分の為にもやってほしいと思います。もう1つは、広域化。昭和27年に遠賀川の水を引っ張ってきたのは、当時の門司市をはじめ4市です。北九州市は広域化のはしりとも言えます。いま、福岡県内の水道事業を見た時に、より安い費用でより良い水道事業を行うには、広域化を進めるべきです。その時に北九州市の水道事業の人材や技術はきっと役に立てると思います。